上品な風味と豊かな香り、たっぷり果汁が魅力。「ひむかへべす」の誕生まで

スダチ、カボス、ユズの“いいとこどり”

左から「へべす」「かぼす」「すだち」

「へべす」は、宮崎県日向地方が原産の柑橘類。この地に住んでいた農家、長宗我部平兵衛(ちょうそかべへいべえ)さんが、江戸時代末期に発見したといわれており、以前は柑橘類のことを「酢みかん」と呼んでいたことから“へいべえさんの酢みかん”が転じて「へべす」になったそうです。

味や見た目はスダチやカボス、ユズに似ていますが、スダチより玉が大きく、カボスより香り豊かで、ユズより皮が薄いのでたっぷり果汁がとれる。まさにそれぞれの“いいとこどり”。酸っぱすぎず甘すぎず、酸味・香り・風味のバランスが非常によいのが特徴です。

また、栄養価も高く、「クエン酸」や「ビタミンC」に加え、機能性成分の「フラボノイド」の含有量が他の柑橘類と比べて高く、その中でもがんの抑制や疲労回復、アンチエイジングなどに効果があるとされる「ナツダイダイン」も豊富です。

地元の人たちは、8〜10月のへべすのシーズンになると庭から実をとってきて、ビー
ルや焼酎などのお酒にぎゅっと搾ったり、ドレッシングに加えていただくのが一般的。上品な味わいは、魚介類から肉料理まで和洋中さまざまな料理を華やかに引き立てます。

地域を盛り上げるべく地元企業が立ち上がる

地元日向では身近な果実であるへべすですが、生産量は非常に少なく県外への流通はごくわずかでした。へべす農家の高齢化に伴い生産量の低下などが危惧され、2018年ごろから栽培エリアが宮崎県全域へ拡大しました。県をあげて新たな名産品として全国的な知名度を上げるべくブランド化に着手したものの、効果は今ひとつふるいませんでした。

そんな状況を見て立ち上がったのが「ひむか農園」です。母体は日向市で建築や土木工事を手がける「内山建設」。“地域社会にとってなくてはならない会社になる”という企業理念から、地域貢献に熱心に取り組む会社です。

代表の内山雅仁は、ひむか農園立ち上げの背景をこう語ります。
「へべす発祥の地は我ら日向市。無限の可能性をもつ地元の宝を持ち腐れるのはもったいないですよね。これまで自治体主導で売り出してきましたが、規模の拡大には企業参入が不可欠だと考えました」

耕作放棄地を整備するひむか農園

こうして、2019年12月から地元のへべす農家と協力しながら農地を整え、2021年には栽培をスタート。2023年までに農地を4haに拡大し、最終的には10.5haを目指します。これは作付面積として県内で最大。2033年にはへべすの生産量が年間250tに上るという壮大なプロジェクトです。

堆肥事業を手がける関連会社と連携したこだわりの栽培方法

上質なへべすを安定的に生産するため、ひむか農園は栽培の各工程にさまざまな工夫を凝らしています。

まずは、種が入らない栽培。柑橘類は受粉をすることで実の中に種ができますが、ひむか農園では花粉を媒介するハチなどの訪花害虫をなるべく寄せ付けないように管理することで、極力種のないへべすを生産しています。種がないので果汁がたくさん搾れてとてもジューシー。種をのぞく手間も省けるので、料理にも取り入れやすくなります。

また、土壌診断を行うのもひむか農園ならではのこだわりです。内山建設では、2009年から堆肥の製造販売を行う会社「エコロ」を展開しており、いわば土壌のプロ。そのノウハウを生かし、専門家とともに農園の土壌を定期的に分析。土の状態に合わせて肥料や土壌改良材を投入することで、土壌を健全に保ちます。ここで用いる肥料ももちろん「エコロ 」産。強制的な火力による乾燥発酵ではなく、時間をかけた自然発酵による高品質な有機肥料を使用しています。

さらに、害虫予防のためにはどうしても農薬の使用は不可欠ですが、こまめな手入れを行うことで使用量は必要最低限に。化学農薬の使用を抑えるため、木酢液などの有機由来の農薬を活用するなど、品質のためには手間を惜しみません。

新たに拡大する農地には、高齢化などで手入れが行き届かなくなってしまった休耕地を利用するなど、さまざまな角度から地域貢献にアプローチしているひむか農園。

「今後は、調味料やスイーツなどの商品開発や、へべすを使ったレシピ考案なども行い、へべすの魅力を積極的に発信していきたいですね。一度味わったら皆さんきっと虜になるはずです」と内山は意気込みます。